【今週の3曲】David Bowieキャリア屈指の傑作『Heathen(ヒーザン)』を聴きましょう

短期集中David Bowie(デヴィッド・ボウイ 1947 – 2016年)特集。

本日も昨日に引き続き2002年にリリースされた通算22枚目のアルバム『Heathen(ヒーザン)』を取り上げます。

昨日はアルバム冒頭の「Sunday」をご紹介し、2曲目のPixies(ピクシーズ)のカバーにかるーく言及しましたが、本日は3曲目から順に3曲という何のひねりも無い選曲で。

今日が土曜日(日曜から金曜までは【今日の1曲】で、土曜は固定で【今週の3曲】)だという事をすっかり忘れておりまして、これといって他に気の利いたお題が思い付かなかったのもありますが、この『Heathen』、個人的にはDavid Bowieのキャリアの中でも特にアルバム前半部分は屈指の傑作だと思っているので、まずはアルバム3曲目に収録された「Slip Away(スリップ・アウェイ)」から行ってみましょう。

David Bowie – Slip Away
David Bowie – Slip Away

素っ気ない言い方をすれば、割とありがちな「雰囲気系のバラード」とも言えなくもない、特にこれといって際立ったところは無い楽曲かも知れませんが、その「雰囲気」が最高。最上級。
こういうのは子供には出来ません。
「Sunday」にしてもそうですが、これは人間として成熟していないと絶対に出来ないであろう表現で、それはある種の万能感があった若い時分のDavid Bowieにも出来ないもの。

この『Heathen』を傑作たらしめているのは、成熟とも同義の老生を受け入れ、ーーと言っても今までも別に拒絶していたわけでは無いのでしょうが、ロックスターが年齢を重ねるという事と、同時に新時代の流行の音に挑戦するという事との折り合いの付け方が傍目にもどうにも難しく、いまいちチグハグだった部分もあったように思いましたがーー2000年代に入ってからは約20年ぶりにクラシカルな弦のアレンジを得意とするTony Visconti(トニー・ヴィスコンティ)を再び共同制作者に迎え、未発表に終わったものの自身のキャリア初期作のセルフカバーに新曲を加えた『Toy』を制作したことや、映画『Moulin Rouge!(ムーラン・ルージュ)』に使用され、同サントラにも収録された「Nature Boy(ネイチャー・ボーイ)」というスタンダード曲をカバーした事で、クラシックな音への回帰と年齢的なものが上手く合致したのだと思います。

とは言えただクラシック回帰しているわけではなく、部分的に最新の音響効果も巧みに取り入れた編曲がなされていたりもする訳です。

と、書きながらも続くアルバム4曲目に収録され、シングルカットもされた楽曲「Slow Burn(スロー・バーン)」は特に時代性云々関係なしで、目新しさ(耳新しさ?)とかは特に無い、ただの「ザ・名曲」だったりします。

Slow Burn (restored video) – David Bowie
David Bowie – Slow Burn

これも乱暴な言い方をすれば代表曲のひとつ「Heroes(ヒーローズ)」っぽい曲。なわけですが、個人的にはこちらの方が断然好き。
前に「Heroes」を取り上げた際に書いた通り、「Heroes」が飛び抜けて別格だとは思わないのは、このような優れた楽曲が他にも存在するからです。

では本日最後、アルバム5曲目に収録された「Afraid(アフレイド)」をご紹介します。

Afraid | David Bowie + Lyrics
David Bowie – Afraid

ストリングスが入った淀み無くフツーに流れてゆく良質なロック曲。以上。とも言えなくもない、これも3曲目の「Slip Away」同様、特に際立ったところがある訳ではない楽曲なのかも知れませんが、これはもうここまでの流れで聴くと絶妙に丁度良い。

歌詞中に”I believe in Beatles(自分はビートルズを信じる)”というくだりがあって、これは言わずと知れたThe BeatlesのメンバーだったJohn Lennon(ジョン・レノン)が、バンド解散後初のソロ・アルバム『John Lennon/Plastic Ono Band(邦題:ジョンの魂)』に収録した「God(邦題:神)」にて歌われた、”I don’t believe in Beatles(自分はビートルズを信じない)”に呼応したもの。

話がちょっと長くなってしまいますが、そもそも「God」をよう知らん。という人のために簡単に説明すると、「God」は”魔法を信じない”に始まり、部分的に抜粋すると、”キリストを信じない、ケネディを信じない、マントラを信じない、エルビス(・プレスリー)を信じない、”ジーママン(ボブ・ディランの本名)を信じない”からの、”ビートルズを信じない”が来て、”ヨーコと自分だけを信じる。それが現実。夢は終わった”で締めるというなかなか衝撃的な楽曲です。

David Bowieの「Afraid」つまり「恐れ」という意味の楽曲ですが、ここから”I believe in Beatles”だけを抜き出しても何のこっちゃ全然意味が分からないので、その前後も多少引っ張ってくると、

I believe we’re not alone
自分は一人ではないと信じる
I believe in Beatles
ビートルズを信じる
I believe my little soul has grown
成長している小さな魂を信じる
And I’m still so afraid
そして俺はまだとても恐れている
Yes, I’m still so afraid
そう、まだ俺はとても恐れている

というもので、老成し、成熟したとて変わらない「恐れ」について歌われています。
David Bowieという人は、自分の内面の弱さを結構隠さない人で、時にハッタリめいたことを言う事もあれど、驚くほど素直な人でもあった、という印象です。

「誰かが頭の良さそうな発言をしたら、それを覚えておいて、あたかも自分が考えたかのように言うんだ」
みたいな事を言っていたのを読んだ覚えもあります。
まあこれは逆にシニカルな発言とも言えるかも知れませんが、こういう事は昔からもう訳が分からないほど何かとカマシまくりのBob Dylan(ボブ・ディラン)なら絶対に言わないでしょう。

で、そんな素直な人間らしさが歌われていたりもするこの大傑作アルバムですが、まず一見さんがこれ見て「聴いてみよう」とは思わなそうな、ハイセンス過ぎるジャケット。
宇宙の電波受信中みたいな、ちょっとイッちゃってる感じの写真にタイトルの『Heathen』。日本語で言うと『異教徒』が逆さに配置されていると言う意味深さ。

書き出すとキリが無いので、一つ一つを取り上げたりはしませんが、本作をレコーディング後の2011年の9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件を彷彿とさせるある種の予見のようでもある、と言われる歌詞も併せて聴いてみることをおすすめします。

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