【今週の3曲】Aphex Twinの3曲

短期集中David Bowie(デヴィッド・ボウイ 1947 – 2016年)特集からの、横道に逸れてここ数日ドラムンベース楽曲の紹介に流れておりますが、今回もそのままの流れでドラムンベース楽曲におけるある種の決定的な楽曲をご紹介します。

Girl/Boy Song
Aphex Twin – Girl/Boy Song

昨日取り上げたSquarepusher(スクエアプッシャー)と同郷のイギリスはコーンウォール出身の音楽家で、SquarepusherのデビューアルバムをリリースしたRephlex Records(リフレックス・レコーズ)の設立者でもあるRichard D. James(リチャード・D・ジェームス 1971 -)。
その彼が音源を発表する際に用いる数ある名義の中で最も有名な、Aphex Twin(エイフェックス・ツイン)という名義で1996年にリリースした『Richard D. James Album』(ちょっとややこしい)のリード楽曲「Girl/Boy Song(ガール/ボーイ・ソング)」。

聴けばある程度誰でも分かる通りの大名曲。
このドラムンベース(ドリルンベース)はSquarepusherの影響で取り入れたもの。という記事だかインタビューだかを読んだ覚えがありますが、端的に作家性の高さで比較をすれば影響元のSquarepusherよりもRichard D. Jamesの方が遥かに高いと思います。

そもそも作家性とは何ぞや?という話ですが、単純に個性と言いますか、楽曲に現れたパーソナリティの強靭さと言いますか、ちょっと説明が難しいのですが、実際ハウス/テクノ系の音楽って機材を適当に弄っていればそれっぽいものなんて幾らでも作れたりします。
でもRichard D. Jamesの音楽って滅茶苦茶にハードなものからシンプルなピアノ曲まで幅は広くとも「あ、これはRichard D. Jamesだな」とすぐに分かる、確たる「作家性」と言ってしまいたくなるようなものがあるのです。

で、Squarepusherも大変ユニークで優れた音楽家であり優れたベーシストですが、それでも相手がRichard D. Jamesとなると些か分が悪い。個人的にSquarepusherにも好きな楽曲はいくつかありますが、Richard D. Jamesにある「軽み」のようなものがあまり無く、突き詰めてしまうと圧迫感が物凄い事になる。という印象があります。それはそれで良かったりもするんですけど。

90年代に活動した音楽家で1番の天才は誰か?
という問いを音楽家や評論家にしたならば、傑出したソングライターであり、今なお風化せずファッションアイコンとしても取り上げられるNirvana(ニルヴァーナ)のKurt Cobain(カート・コバーン)だったり、西洋以外のいわゆる「ワールドミュージック」の決定盤となった『Set』をリリースしたセネガルのYoussou N’Dour(ユッスー・ンドゥール)、自身の作品のみならず、Snoop Doggy DoggやEminem等のプロデュースワークでも知られるDr. Dre(ドクター・ドレー)や、圧倒的な完成度を誇る2枚のアルバムをリリースしたD’Angelo(ディアンジェロ)、ノイズやアヴァンギャルドな表現をポップに昇華した日本のバンドBoredoms(ボアダムス)のヤマツカEYE、伝統的な音楽と新しい音楽とのミクスチャーを提示したBeck(ベック)、どんどん彼岸へと向かって行くような音楽を残して、突然居なくなってしまったフィッシュマンズの佐藤伸治辺りがパッと思い付くところで、個人的にはバンドTalk Talkのラストアルバムで音楽そのものの重要な「何か」を掴んでしまったMark Hollis(マーク・ホリス)と音楽そのものが人の形をしていたようなL⇔Rの黒沢健一も挙げておきたいところですが、多分Richard D. Jamesの名が最も多く挙がるのではないかと思います(そんなことない?)。

Richard D. Jamesという人は、いかにも天才っぽいエピソードを多く持った人で、結構な田舎育ちで16歳まで他人の音楽を全く聴いたことが無く、それよりも先に、縁あって手に入れた機材を使って自分でひたすら音楽を作っていた。というかなり嘘っぽいものや、レコード会社との多額の契約金で買った戦車を道で走らせるのが好き、という浮世離れしたものだったり、1997年の第1回フジロックではステージ真ん中に設置された小屋から出て来ず、その中で機材を弄っていたのか、巨大なクマのぬいぐるみが2体ひたすら踊っていただけ。という現場での演出や、自身の顔を悪趣味に加工したアートワークだったりの食わせ者っぷりとか。
あとこれは天才云々のカマシ系エピソードとは違いますが、Richard D. Jamesという名前からして自身が出生前に亡くなった兄の名をそのまま付けられているらしく、それでAphex 「Twin」を名乗っている。という説があります。

『Richard D. James Album』に先んじてリリースされたEP『Girl/Boy EP』のジャケット写真の墓標には「RICHARD JAMES」の名が刻まれており、これは同名の兄のお墓なのだそう。
普段はあまり曲名やアルバムタイトル、ジャケットに強い意味を持たせない印象の人ですが、もしかしたらこれはその兄に捧げられた楽曲なのかも知れません。

本日2曲目。ここからはドラムンベース云々からは外れまして、評論家から「テクノ・ジーニアス」「テクノ・モーツァルト」とも絶賛された、Richard D. Jamesのキャリア初期の、こちらもAphex Twin名義で1992年にリリースした1stアルバム『Selected Ambient Works 85–92(アンビエント・ワークス)』より1曲、冒頭に収録された「Xtal(クリスタル)」

Xtal
Aphex Twin – Xtal

Richard D. Jamesは1971年生まれなので、アルバム名に照らし合わせると14歳から21歳までの間に作った楽曲が収録された作品集で、先程の「Girl/Boy Song」とはだいぶ作風が異なり、純度の高いイノセントな響きの楽曲が多いです。

その中でもこの「Xtal」はテクノ史上でもNo.1に挙げられることもある程、とてつもなく評価が高い楽曲だったりしますが、少々「音が悪い」という意見もあるようです。
確かにテープで録音したと思われる、全体的にクリアではない響きや節々がザラつくような質感があるにはあるのですが、これはこれで作品のドリーミーな雰囲気にひと役買っているようにも思います。そもそもクリアで解像度が高く迫力があれば良い音という訳でも無いし。
とは言え聴く時の気分やコンディションによっては「Xtal」の特徴的な音質が煩く聴こえたりすることもまあ、あるにはある。
リマスター盤が出た際にはそこら辺どうなっているのかと少し興味がありましたが、結果あまり変化は無かったことも付け加えておきます。

上の方でいくつかご紹介した以外にも様々な奇人変人的なエピソードを持つ人ではあるものの、別にそういうのがあろうがなかろうが音質に多少クセがあろうが、「天才的」と言い切ってしまって問題の無い傑出した才能の持ち主であることが分かる楽曲だと思います。はい。

最後3曲目は、別名義Polygon Window(ポリゴン・ウィンドウ)の作品にしようかと思いましたが、聴きやすさ重視でAphex Twin名義のこちらにしておきます。

Alberto Balsalm
Aphex Twin − Alberto Balsalm

1995年リリースのアルバム『… I Care because You Do(アイ・ケア・ビコーズ・ユー・ドゥ)』に収録された楽曲「Alberto Balsalm(アルバート・バルサルム)」。
顔芸が始まったのはこのアルバムジャケットからでした。

これも説明不要の名曲。
今回選んだ3曲はどれもメロディーが素晴らしく良いと思いますので、普段テクノや歌の入っていないインストものはあまり聴かないという方にもお勧め。

他にも過激なぶっ飛び楽曲から、ほぼ何も起こらないようなアンビエント楽曲まで幅広い作品がリリースされているので、是非色々聴いてみてください。

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