【今週の3曲】安部恭弘の3曲

恐らく今では「知る人ぞ知る」扱いになってしまっている、1982年デビューのシンガーソングライター、安部恭弘。

作品の質と知名度が今一つ合致していないミュージシャンは少なからず存在しますが、この人もその一人で、実際長いこと初期のCDは廃盤の憂き目にあっていました。
そんな中、先週紹介した「GREAT3」の片寄明人が企画・監修をして、2004年にそれまで廃盤だった1st~4thアルバムがデジタルリマスターされ復刻発売された、という経緯があります。グッジョブ。そういう繋がりもあり今週選んでみた次第です。

まず聴いていただきたいのは、1984年に発表された3rdアルバム『SLIT』の2曲目。「アイリーン」。これは代表曲のひとつに挙げて良い楽曲。
当時このLP(レコード)に付いた帯の文句がなかなか印象的でした。
「このアルバムは、高感度人間と相性がいいようです」

Yasuhiro Abe – Irene (1984)
安部恭弘 – アイリーン

作曲は本人、作詞は康珍化。編曲は清水信之。これは見事な楽曲で、完成度がズバ抜けて高い。まるで高度な建築物のようです。が、この曲は元ネタがあって、アメリカのジャズコーラスグループ、マンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer)が1979年に発表した『Extensions』というアルバムの収録曲「Nothing You Can Do About It(邦題:貴方には、何も出来ない)」がそれです。なお、作者であるジェイ・グレイドン(Jay Graydon)とデイヴィッド・フォスター(David Foster)も「エアプレイ(Airplay)」というユニットで取り上げています。この2人について書くと長くなっちゃうので、また機会があれば書きたいのですが、ジェイ・グレンドンについてだけ簡単に、これまで当サイトで取り上げたミュージシャンとの関わりで言うと、まずスティーリー・ダン。それまで6人の有名ギタリストがトライするも不採用となった、彼らの楽曲「Peg」(1977年の『Aja 彩(エイジャ)』収録)のギター・ソロの録音に7人目として参加し、見事合格。それによって業界で一躍その名を知られるようになった。というエピソードは有名。あとは角松敏生や松田聖子のレコーディングにも参加しています。話を戻しまして、この元ネタ曲って正直メロディーがちょっと難しい感じで、端的に言うと「作り上げた感」が強く、「アイリーン」の方が全体的に滑らか。このような元ネタ、悪く言えばパクリというのは往往にして非難されがちですが、この楽曲は音楽的な結果として大変素晴らしいと思います。

ボーカルについて述べると、この曲はファルセットを多用していますが、個人的に特筆したいのは地声の方で、ここまで輪郭がはっきりとした甘やかでジェントルな声の持ち主は、日本人ではあまり居ないのでは?

続いて1985年の4thアルバム『FRAME OF MIND』の冒頭を飾る曲、「LADY」。

安部恭弘-レディ
安部恭弘 – LADY

こちら作詞作曲共に本人。
このソリッドさは理屈抜きに格好良い。個人的にはこの曲で始まる4thが、3rdと
僅差ながら一番完成度が高いと思っています。「アイリーン」ほど抜けた曲は無いものの、平均値が一番高い印象。ただこのアルバムジャケットは、ちょっとだけ敷居が高い気がする…。

最後にこちら、3rdアルバムに戻って、3曲目に収録された曲、「My Dear」。つまりアルバムでは「アイリーン」の次にこの曲です。

安部恭弘 – My Dear

作曲は本人、作詞は吉田美奈子。安部恭弘の曲で吉田美奈子が歌詞を書いたのは確かこれだけ(のはず)。先述の2004年に復刻されたCDのブックレットには、安部恭弘と片寄明人の対談が収録されているのですが、この曲の録音に当り吉田美奈子が安部恭弘の想定していたメロディーラインとは少し解釈の違う仮歌を披露し、それを採用した。というエピソードが語られている。言われてみればちょっとだけ吉田美奈子っぽいフワッとしたニュアンスがあるような気もする。これは個人的に安部恭弘の曲の中でトップ3に入ります。

海外に端を発した近年のシティポップブームの中でも今一つ注目度が高いとは言えない気がする安部恭弘ですが、理由を考えてみるに、分かりやすいノリの良さと言うか、誤解を与えそうな言い方にはなるけれどキッチュさが少し足りないのかな?と思ったり。YouTubeの再生回数やコメント欄をざっとみると、海外からのコメントが複数あるのは「アイリーン」くらいで、他は当時からのリスナーのコメントが殆ど。たまたま知られていないだけかも知れませんが、何にせよ安部恭弘抜きに日本のAORは語れないですよー。

…って書いていて思ったのだけれど、なんか安部恭弘って「シティポップ」って感じがあんまりしない。言葉のビミョーなニュアンスだけれど「AOR」ならしっくり来る。そこの差だろうか?なんか分かりにくい書き方ですみません。軽妙さよりもディープさが勝る感じ、と言えば伝わるでしょうか?多分今流行ってるのって、テンポが早目でノリの良い感じ。または抜け感のある軽めなものが中心なので、そこからは少し外れているのかな?という印象。
ここら辺の文章は後で書き直すことになりそうです。とりあえずの暫定文章。

ちなみに丁度今年2019年、紙ジャケット仕様で限定復刻盤が出ているようなので、気になった方は是非チェックしてみてください。

ところで、今回記事を書くに当たりWikipediaを見て初めて知ったのですが、学生時代に家庭教師をしていた際の教え子が野々村真なのだそうです。

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